つげ木肌に宿る慈悲——釈迦牟尼像がもたらす心の静寂と招福
つげ木彫りの釈迦牟尼坐像は、中国浙江省を中心に発展した「楽清つげ木彫」の伝統工芸技術を代表する仏教美術作品です。つげ木は緻密な木目と淡い黄金色の光沢が特徴で、千年以上の耐久性を持つことから「木中の象牙」と呼ばれ、仏像彫刻の最高級材として珍重されてきました(木彫りお釈迦様 置物)。
本作は釈迦牟尼が菩提樹下で悟りを開いた瞬間を表現した坐像です。全体のプロポーションは厳格な左右対称性を保ちながらも、衣の襞(ひだ)には流れるような曲線が用いられ、硬質な木材に柔らかな動きを与えています。特に注目すべきは面部の造形で、半眼の瞑想表情には「智慧」と「慈悲」の両方が宿り、中国仏教美術における「相好(そうごう)の美」の典型と言えます。頭部の螺髪(らほつ)は一粒一粒が手彫りで仕上げられ、光背の唐草文様と相まって神聖なオーラを醸し出しています。
制作技法においては、鑿(のみ)と彫刻刀を併用する「鏤空(木彫り神様)技法」が駆使されており、衣の透かし彫り部分から光が透過する仕組みは、仏の「光明遍照」を象徴的に表現しています。彩色を施さない素木仕上げは、素材そのものの温もりを活かしつつ、禅の精神性を強調する日本仏教彫刻との共通点も見られます。
歴史的には明代(14-17世紀)に最盛期を迎えたつげ木彫りは、仏像だけでなく文房具や置物にも応用され、東アジア全域に輸出されました。本作のような坐像は、(木彫り置物)仏教儀礼における礼拝対象としてだけでなく、高度な工芸技術を伝える文化遺産としても評価されています。現在、北京故宮博物院や大英博物館など世界の主要美術館が代表的なコレクションを所蔵しており、その芸術的価値は国際的にも広く認知されています。